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PR・マーケ・営業はエージェンティックAIに置き換えられるのか——Web Summit Vancouver 2026 を取材

Web Summit Vancouver 2026 取材レポート:エージェンティックAIとPR・マーケの未来

エージェンティックAIが現実の業務に入り込みつつある今、「マーケティングの仕事はAIに置き換えられるのか」「PR会社や広告代理店は不要になるのか」「営業の担当者も減らしてよいのか」という問いに、頭を抱えている経営者やマーケターの方は少なくないはずです。

2026年5月、カナダ・バンクーバーで開催されたテック系カンファレンス「Web Summit Vancouver 2026」にシェイプウィンの代表としてメディア枠で参加しました。講演や出展者、参加者へのインタビューから得た答えは、PRも、マーケも、代理店も、営業も、「消える」のではなく「役割が組み替わる」ということでした。AIによってコンテンツ制作や分析、その後のアクションは速く、そしてコストは大幅に削減になります。しかし、「AIに何を学習させ、どの判断を人間が握り、いつブランドの声として外に出すか」というコンテキストデザインこそが、新しい競争軸になります。この記事では、エージェンティックAI・生成AI時代にPR・マーケティングパーソンが何を意識すべきか感じたことをレポートします。

エージェンティックAI元年はトークンマクサーが勝つ?

Sionic AI エンジニア シグリッド・ジン氏がWeb Summit Vancouverで基調講演を行う様子
Web Summitでのシグリッド・ジン氏の基調講演

2026年5月11日の夜、Web Summit Vancouver 2026 のオープニングを飾ったのは、Sionic AI のソフトウェアエンジニア、シグリッド・ジン氏の基調講演でした。Anthropic Claude のコードベースをAIエージェントに連続稼働させて書き換え、リリース1日で GitHub スター10万を集めた人物です。年間250億トークンを費やすその姿勢から「トークンマクサー(トークンを最大限に利用する人)」と呼ばれ、司会の Axios シニアレポーター、マディソン・ミルズ氏は「トークン使用量こそ生産性の新しい指標になった」と紹介しました。

「一行一行のコードに価値はなく、コードが生み出すインパクトに焦点を当てるべきです」と舞台上で彼は語っていました。プログラミングに限った話ではありません。プレスリリースもオウンドメディアの記事も企画書も、生成自体は誰でもある程度のクオリティでできるようになりつつあります。だからこそ、何を、誰に、どのタイミングで届けるかという「インパクトの設計」が問われるのです。Web Summit CEO のパディ・コスグレイヴ氏も冒頭で「AIの未来を巡る戦いが起きている」と投げかけ、「Who owns the future?(未来は誰のものか)」 が今年を貫く問いとなりました。

生成AI時代にブランドが守るべき「クリエイティブ DNA」

Web Summit Vancouver 2026 会場の様子(Photo by Vaughn Ridley/Web Summit via Sportsfile)
Photo by Vaughn Ridley/Web Summit via Sportsfile

5月12日のマーケティングセッション「Brand building in the age of AI(AI時代のブランド構築)」では、AIスタイリングアプリ「ALTA」創業者ジェニー・ワン氏と、元 Victoria’s Secret モデルでラグジュアリーブランド共同創業者のジャスミン氏が登壇しました。「AI生成コンテンツが普遍化する世界で、パーソナリティとクリエイティブDNAを守り、AIを”代替”ではなく”増幅”に使うことが、ブランド成功の鍵だ」というディスカッションがありました。

ALTAはミシェル・オバマ元大統領夫人専属スタイリストのメレディス氏を起用し、RLHF(人間フィードバックによる強化学習)で専門家の判断をAIに食わせ続けています。「AIだけでは主観的な領域(オリジナリティ)には届きません。人間のフィードバックでモデルを個人に合わせて更新する設計を最初から組み込みました」(ワン氏)。

ジャスミン氏は別の角度から指摘します。「今、グローバルアルゴリズムが文化を平坦化しています。Instagram も Pinterest も皆が同じトレンドを真似して同じ見た目になる。むしろALTAのように一人ひとり違うコーディネートを提案するAIが、”自分らしさ”を取り戻す側に立っているのです」。

北米でPRに携わるPRマーケティングのスペシャリストとして、この議論には強く頷いていました。AIがコンテンツの平均値を量産する時代、ブランドの「らしさ」と人間性こそが希少資源として高値で取引されます。コンテンツの”量”で勝つ時代は終わり、世界観と人間性で勝つ時代が戻ってきていると言えます。

エージェンティックeコマースが書き換える「発見」の動線

エージェンティックAIとeコマースをテーマにしたWeb Summitのセッション
エージェンティックAIとコマースのセッション

「エージェンティックAI」というキーワードは、eコマースの現場では日常になりつつあります。翌日の「Agentic AI & commerce(エージェンティックAIとコマース)」セッションでは、エージェンティックコマースに関する考察が発表されました。モルガン・スタンレー予測でエージェンティックコマースのeコマース寄与は500億〜1,150億ドル、最良ケースで全体eコマース売上の約10%増分と提示されました。さらにAI経由のリテール送客の70%が商品詳細ページに直接ランディング(1年前は50%)、小売事業者のAIへの信頼は汎用AIの3倍といったデータも紹介されました。

会場の出展ブースでも、この変化を体現するスタートアップに会いました。AdsGency AI は「1人マーケターがAIで広告運用を完結するエージェンシーレスモデル」を提唱。Scale Social AI は満足顧客の体験を自動で SNS 投稿に変換し、オーガニックUGCを量産する仕組みを見せてくれました。イタリア発の Bytek は、1stパーティデータから個人単位のcLTV(顧客生涯価値)をAIで予測し、導入企業でcLTV +30%、CAC(顧客獲得単価)−37%、チャーンレート(解約率) −23%を実現しています。

カスタマーインサイトAIでリードを推測するBytekのブース展示
カスタマーインサイトAIによるリードの推測を行うBytekのブース

「自社サイトに来てもらう、検索で上位を取る、SNSで話題化する」というこれまでの王道導線が、AIエージェント時代に書き換わりつつあります。SEO が GEO(AI検索最適化)に変わるという技術論だけの話ではありません。「AIに何を学習させ、どこで信頼を獲得し、どの瞬間に推薦されるか」を設計する戦略論です。日本企業の反応はおそらく1年遅れます。北米ではすでにGEOが当たり前になっている今こそ取り組むべきです。ちなみに、シェイプウィンの集客も50%以上がAIのレコメンドです。

コンテクストデザイン——人間が握る最後の領土

3日間の取材で最も印象に残ったのは、バンクーバー発の「Heroic Design」です。社長のクリストファー・マクリーン氏はプロダクト開発歴25年、自身のコーヒー機器企業をイグジットし、その後プロダクトデザインの方法論をブリティッシュコロンビア大学(UBC)でも教鞭をとっている人物。起業のきっかけを尋ねると笑って答えてくれました。「自分が書いた教科書のテンプレート群を眺めていたら、これ全部AIで自動化できると気づいたんです」。

Heroic Design Inc. 社長クリストファー・マクリーン氏がAIブランディングについて語る
Heroic Design Inc. 社長 クリストファー・マクリーン氏

AIプロダクト開発のツールを使うことで、ペルソナから競合分析、PRD(プロダクト要件書)、プロトタイプまで6〜8時間で完成(通常は数週間以上かかる)させることができます。最も興味深かったのは、日本発の品質工学QFD(Quality Function Deployment/品質機能展開)をAIネイティブに再実装している点でした。「QFD は日本で生まれ、自動車産業で広く使われている手法です」とマクリーン氏は明言します。「AIはアイデアを生成します。だが評価は人間がやる」という設計思想からも人とAIの協創のヒントがもらえました。

ここに最もお伝えしたいメッセージがあります。日本企業がAI時代に競争力を持つためには、自社の業務プロセス、職人技、顧客理解、業務文脈を”AIリーダブル”に変換できるかが鍵になります。同じ業界や業務で20年以上の経験を持つ人物は世界中にいますが、それを「AIに食わせられる形」に変換した最初の一人が市場を取る時代に入ったのです。

Hello Gubby AIアバターによるリアルタイムAI応答デモの様子
Hello Gubby AIアバターによるAI応答デモ

もう一人、同じバンクーバー発の「Hello Gubby」創業者、ヨゲシュ・アビチャンダニ氏も忘れがたい存在です。音声AI顧客対応プラットフォームを月59ドルで提供。「100社の顧客がつくまで誰も雇わない」と公言するソロプレナー(一人で創業する企業家)です。VCに「最低50万ドルの調達は必要だね」と言われ、従来のVC資金を元に人を雇い組織でグロースすることに疑問を持ちました。AI駆動開発でサービスを作り、AIエージェントで会社経営をこなすことができる時代。AIを使い切ればソロプレナーでも世界に届くのではないかと期待しています。

両者に共通したのは、AIに「何を食わせ、どの判断を人間が握るか」を明確に設計していたことです。生成AIに奪われない最後の領土は、人が持つコンテクストデザインにあると確信しました。

生成AIのトークンをインパクトに変えられるのは「人間」

バンクーバーには長年の友人が経営するPR会社があります。ChatGPT 普及後、「プレスリリースもメディアピッチもAIで自社でできる」と顧客が次々に離れたそうです。ところが半年後、ほぼ全員が戻ってきたといいます。AIでプレスリリースは生成できても、誰に、いつ、どのトーンでアプローチするかの戦略判断、業界の集合知、自社のエッジを引き出す問いの立て方は、AIにはまだ出せなかったからです。

AIを単独で使えば誰がやっても「平均的なコンテンツ」になり、差別化を消す方向にも働きます。冒頭のジン氏も語っていました。「AIに完全に任せたくはありません。私は議論の輪に入る側でありたい」。年間250億トークンを使いこなす本人の言葉です。

メディアルームでシグリッド・ジン氏と偶然遭遇したシェイプウィン代表
基調講演のシグリッド・ジン氏にメディアルームで遭遇!

シェイプウィンはすでに、AIとプロフェッショナル(人間)とのあいだのコンテキストデザインによって、お客様のPR・マーケティング業務の中身を組み替え始めています。難易度の高いコンテンツ制作、これまで時間のかかっていたレビュー作業、競合や業界動向のマーケティング調査を、より広範に、より網羅的に、より速く提供できるようになりました。そして、戦略の立案・実行と、そこから出てきたデータや結果に基づく戦略の修正というコア業務に集中できるようになりました。結果として、同じご予算でこれまでより質の高いサービスをものすごいスピードで提供できる状態に、すでに到達しています。

バンクーバーで会ったスタートアップのファウンダーたちと同じく、私たちも自分たちのコアを「AIリーダブル」に変換する側に立っています。日本企業がグローバルに挑むご支援に、ますます腕が鳴ります。

この記事の著者